Texte modifié de l’intervention d’Alexandre MANGIN du 5 décembre 2009 穿袖の謎-フランス語圏で絵引をどう使うか-

宮本常一の研究から「日本常民文化研究所」と「非文字資料研究センター」で『絵引』を翻訳するのは自然の過程である。Frédéric(フレデリック) LESIGNE(ルシーニュ)氏と有能なアシスタント原氏と協力し、『日本常民生活絵引』の仏語訳を担当している。

ここでは、『絵引』の内容の分析等ではなく、『絵引』の翻訳という作業そのものについて述べ、そしてフランス語圏における、本翻訳の意味を明らかにしたいと思う。ここでの私の目的は、翻訳の理論を作ることではなく、ただ私たちが経験した困難や問題をありのままに紹介し、そしてその企画をより広い観点から検証することだけである。

 

一 翻訳の具体的な点から

まず、例から始めたいと思う。この発表のタイトルに挙げた単語の説明についてである。実を言うと、私たちはタイトル中の単語「穿袖(??)」の読み方が分からない。音読みの「センシュウ」か「センジュ」、それとも訓読みの「うがちそで」か「はきそで」なのか。一体なんと読むのであろうか。索引に読み方は記されていませんが、並び順から「うがちそで」だと判断でる。しかし、その索引を作った人は『絵引』を書いた人ではない。

『絵引』の実質的な執筆者は、編集者:澁澤敬三自身より、アチックミューゼアムのチームであった。そのメンバーの一人、宮本常一が60%程度―大半を執筆したと推測される。宮本常一は碩学(せきがく)であったが、平安時代の全ての専門用語のニュアンスを知っているわけではなかったので、時々「適当な」名称や新語や造語が現れるのである。「穿袖」はその一例である。

さて、なぜ翻訳者にとって、漢字の読み方はそんなにも重要なのであろうか。実際は服装だからなのである。それは、単語が服飾用語=専門用語または固有の名詞などであるという理由からなのである。(『絵引』という)翻訳対象が服飾のみならず、仏教・動植物等さまざまな専門用語や固有の名詞で構成されており、それを正確に仏語で訳し、かつ、日本語での読み方を付記しなくてはならないからである。

この翻訳に着手する前に、我たちは共通の翻訳のポリシー(Charte)を決める必要性を強く感じた。原文の説明を加える脚注を掲載してはならないという前提がある以上、原文が今の基準によると充分に科学的であるとは言いがたくとも、その翻訳はできるだけ科学的なものでなければならない。

私たちのポリシーのいくつかの例を挙げたい。

例えば、1/ 服装の名称の場合、単語のローマ字表示、そしてその省略された定義(小定義)を載せる。

2/ ある単語が二回出てきて、同じものを示す場合、その翻訳は同じであることである。つまり、ある単語の翻訳は途中で変わってはならない。

3/ また、二つの単語の意味が非常に近いものであっても、違う仏語に訳する。

4/ 明確さを目指しているので、たとえば、植物の名称がフランス語にない場合、そのラテン語の学名に、また、仏教関連の名称の場合は、日本語から梵語にというように、それぞれ変換して記載する。

5/ さらに、仏語訳に特有の原則も決定しました。例えば、章のタイトルでは、定冠詞を使うが、キャプションでは不定詞(つまり辞書形)の前「action de ~」(~動作)をつき加える、などである。

 

そのような科学的な一貫性を必要としているのはフランス語圏の読者が特別だからだ。なぜこのようなプロセスが必要なのかと言うと、そのような科学的一貫性を重視する、フランス語圏の読者の特殊性が背景にあるからだと思う。

 

 

二 フランス語圏における『絵引』の仏語訳

私たちがポリシーの必要性を感じた理由は、『絵引』の仏語訳の読者が一体誰であるのか、それを自問した結果なのである。

英語訳が対象している読者が誰であるのかは存じませんが、仏語訳の可能的な読者(仏語訳を読むであろう人)は、きっとフランス語圏(つまりフランスだけではない)の一般の人というよりも、学者の世界の人なのである。『絵引』を買う可能性が高いのは、まず大学の研究所だと思われる。ご存知の通り、フランス語圏における「郷土研究」のレベルは依然として高く、他の国々に比べて、その研究範囲に関する小論文は定期的に出版されている。しかしながら、日本の庶民の生活史に関する研究論文は少なく、使われている資料は主に筆記資料である。絵を歴史資料として使うのはまだ稀で、始まったばかりである。現在、私たちの作業を手伝ってくださっている校閲者のドイツのCharlotte von VERSCHUER(ヴェルシュアー)教授やフランスのJean-Michel BUTTEL(ビュッテル)准教授は、そのような非文字資料を使って授業や研究をしていらっしゃるそうである。

要するに、「郷土研究」や「民族学」「民俗学」研究レポートで一番使われている言語は英語、そしてフランス語なので、英語訳のほかに仏語訳があれば、『絵引』は世界中で広く知られるのではないかと思う。

そう仮定すると、その読者の期待している翻訳のレベルは高く、(きん)()を許せないものである。したがって、専門用語を使用しなければいけない場合は多い。例えば、建築用語の場合、「板」を「planche」と直訳するより、その板が縦板か横板なのかなどを区別して、ふさわしい専門用語で翻訳しなければならないと思う。そうすると、「板屋根」を直訳の「toit de planche」より、専門用語の「toit de bardeaux」と翻訳したほうが正確なのである。

もちろん、このような翻訳は、本来、専門家15人ぐらいのチームがフルタイムで行う仕事なので、伝統建築や平安時代の服装の専門家ではない二人のパートタイム翻訳者で完璧にできる任務ではないと言えるが、高い質を要求しながら翻訳しようと、日々真摯に取り組んでいる。

  

 

結論

 

『絵引』の仏語訳は、二人だけで短期間に仕上げなくてはならないという無謀とも思える厳しい任務であるが、きっと科学的な効果のある計画となると強く信じている。

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